“泣き声恐怖症”ママと保健師の30分勝負

—産後の不安と向き合った日—


「赤ちゃんが泣くのが怖いんです」

「訪問お願いしたいんですけど……赤ちゃんが、泣くのが怖くて」
電話越しにそう話したママの声は、震えていました。

理由はそれだけ。
でも、私はすぐに「伺いますね」と答えました。
保健師をしていると、“なんとなくの不安”こそ、すぐに会いたいサインだと感じることがあるのです。

訪問先の静けさ

当日。インターホンを鳴らすと、そっと扉が開きました。
出てきたママは、見るからに疲れた顔。ほとんど目が合いません。

「今、寝てるんですけど……泣くともう、どうしたらいいか分からなくて。怖いんです」
彼女は申し訳なさそうに、ぽつぽつと言葉をこぼしました。

産後2週間。初めての育児。
「泣き声が、自分を責めてるように聞こえるんです」
その言葉を聞いたとき、胸がぎゅっとなりました。

突然の“その時”

静かだった部屋に、小さな声が響きました。
「ふえっ……」

赤ちゃんの泣き声。

その瞬間、ママの体がビクッと跳ねました。
「ごめんねごめんね、ごめんね……」
とっさに繰り返すその姿は、自分を責めるかたまりのようでした。

私は、泣く赤ちゃんをそっと抱き上げながら言いました。

「大丈夫。泣いてるのは、ママが悪いからじゃないですよ」
「赤ちゃんは、ただ“伝えてる”だけ。泣くのが仕事なんです」

少しずつ、少しずつ

赤ちゃんをあやしながら、私は深呼吸を誘いました。
「一緒に、吸って、吐いて」ママも目を閉じて、呼吸を合わせます。
何回か繰り返すうちに、赤ちゃんの泣き声がふっと止みました。

「……泣いても、いいんですね」
ママのその一言に、私の方がほっとしてしまいました。

「泣かせちゃダメって、どこかで思ってて。でも、泣いてもいいんだって言ってもらえて、ちょっと安心しました」
と、小さな笑顔がこぼれました。

少し強くなったママの顔

帰る頃。赤ちゃんはまた、うとうとしていました。

「まだちょっと怖いけど、…今、抱っこしてみたいです」
ママはおそるおそる、でも丁寧に、赤ちゃんを腕に抱きました。

その表情は、少しだけ強く、少しだけ優しくなっていました。

保健師として、伝えたいこと

「泣き声が怖い」
この気持ち、けっして珍しいことじゃありません。

赤ちゃんの泣き声が、
「できてない自分へのダメ出し」のように聞こえること。
完璧じゃなきゃいけない、って無意識に思ってしまうこと。

でも、赤ちゃんはそんなこと思っていません。
泣いてるのは、ママを困らせたいからじゃなくて、
「ここにいるよ」「ちょっとお腹すいたよ」「暑いかも」って教えてくれてるだけ。

泣いても大丈夫。
泣かせても大丈夫。泣くことが赤ちゃんの仕事で、赤ちゃんが自分の気持ちを伝える手段だから。
ママがダメなんじゃなくて、ママは今、がんばってる真っ最中なんです。

最後に

この日の訪問は、たった30分でした。
でも、ママにとっても、私にとっても、すごく大切な時間になった気がします。

自分の気持に蓋をして、自分を責めてばかり。みんな一生懸命で、精一杯頑張っている。100点満点をめざそうとする。そんな真面目なママがすごく多い。

でも、初めての子育てや、一人ひとり個性がある中で、すべてを完璧にこなすことは、とても難易度の高いことだと思います。

私は、自分ひとりでも完璧に一日を過ごすことはできていません(笑)

泣き声が怖いとき、育児がつらいとき、自分の気持ちを話すことは、とても重要になります。誰かの一言が支えになることがあります。
このブログが、そんな“ひとこと”になれたら嬉しいです。

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